コリン・フレッチャー(Colin Fletcher, 1922-2007)は、現代のバックパッキングという文化を形作った「バックパッキングの父」とも呼ばれる人物です。
彼がどのような人物で、なぜ今もなお多くのアウトドア愛好家に敬愛されているのか、その核心を解説します。
- 「歩くこと」を文化に変えた冒険家
フレッチャーは、単なる登山家やハイカーではありませんでした。彼は、重い荷物を背負って荒野を長期間歩き続けることを、ひとつの「生活様式(ライフスタイル)」や「瞑想」に近いレベルまで高めた人物です。
- 伝説的な記録: 1963年、世界で初めてグランドキャニオン国立公園を端から端まで(全長約300km以上)徒歩で縦断した人物として知られています。この旅は後に『グランド・キャニオンを歩く』という名著として出版されました。
- バックパッキングの定義: 彼は「すべての生活道具を背負い、文明から切り離された自然の中で自立して生きる」という現代的なバックパッキングの概念を世に浸透させました。
- 徹底的な「実践主義者」
彼の言葉に説得力があるのは、すべてが自らの経験に基づいているからです。
- 道具への執着: 自分が使う道具に対しては極めて厳しく、ネジ一本、布の端切れひとつに至るまでその機能を吟味しました。
- 検証の精神: 「どのストーブが一番早くお湯が沸くか」「どのパッキングが最も疲れないか」を、実際に何百キロも歩きながら検証し続けました。その集大成が『遊歩大全』です。
- フレッチャーの「歩く哲学」
彼は、人間は歩くことで自分自身や宇宙との繋がりを取り戻せると信じていました。
「私は、家を背負って歩く。それは、最も贅沢で、最も自由な生き方だ。」
彼の思想の根底には、以下のような考え方があります。
- 自立心: 自然の中で頼れるのは自分の足と背中の荷物だけであるという、究極の自己責任と自由。
- 自然への畏敬: 人間を自然の一部として捉え、風景の中に「溶け込む」ように歩くことを推奨しました。
- 彼の経歴
- イギリス生まれ: 第二次世界大戦中はイギリス海軍のロイヤルマリーン(海兵隊)に所属していました。この時の過酷な経験が、後のサバイバル能力や道具への合理的な考え方の基礎になったと言われています。
- 北米へ移住: 戦後、ケニアやカナダを経てアメリカ・カリフォルニアに移住。そこで広大な荒野に魅了され、本格的な歩き旅を始めました。
まとめ:なぜ今、彼を知るべきなのか?
現代の登山は「軽量化(ウルトラライト)」や「スピード」が重視されがちですが、フレッチャーが説いたのは「自然の中に留まり、その豊かさを味わい尽くすための技術」です。
忙しい現代社会において、彼が提唱した「ゆっくりと、しかし確実に大地を踏みしめて歩く」という精神は、一種の心のデトックスとして、今も多くの人に指針を与え続けています。