コリン・フレッチャーの『遊歩大全』(原題:The Complete Walker)は、アウトドア愛好家の間で「バックパッカーの聖書(バイブル)」と称される伝説的な大著です。
1968年にアメリカで出版され、日本では1978年に翻訳家・芦沢一洋氏によって紹介されました。単なるハウツー本を超えた、自然と向き合うための「思想」と「技術」が詰まった一冊です。
主な特徴を以下のポイントにまとめました。
- 圧倒的な情報量と「百科事典」的側面
文庫版で900ページを超える圧倒的なボリュームがあります。
- 家を背負って歩く: バックパックをひとつの「動く家」と定義し、キッチン(ストーブ)、寝室(シュラフ・テント)、衣装部屋(ウェア)といった具合に、生活に必要なすべての道具を詳細に解説しています。
- 実践的な知恵: 1日に何キロ歩けるか、水の補給はどうするか、荷物の重さをどう削るかなど、実体験に基づいた重厚なアドバイスが並びます。
- 「なぜ歩くのか」を問う哲学
道具の解説以上に読者を惹きつけているのが、フレッチャーの深い洞察です。
- ウィルダネス(荒野)への没入: 彼は文明から離れ、自らの足で歩くことで得られる「本当の自由」を説きました。
- 自然との対等な関係: 頂上を目指す「登山」ではなく、自然の中をただ歩き、過ごすプロセスそのものを楽しむ「遊歩(ウォーキング)」の精神を提唱しました。
- ウィットに富んだ語り口
専門書にありがちな堅苦しさがなく、フレッチャー特有の皮肉やユーモア、情熱的な文章が特徴です。
- 訳者の芦沢一洋氏による名訳も相まって、「読むだけでバックパッキングに出かけているような気分になれる」文学的な魅力があります。
- 「健全なる狂気」として歩くことを推奨するなど、彼のキャラクターが色濃く反映されています。
- 現代における価値
初版から半世紀以上が経過しているため、紹介されている道具(革の重いブーツやフレームザックなど)の多くは現在では「ヴィンテージ」の領域です。
しかし、「自分にとって本当に必要なものは何か」を考え、自然の中で自立して生きるという本質的な思想は、現代のウルトラライト(UL)ハイキングの源流としても再評価されています。
もし興味をお持ちなら:
現在は「ヤマケイ文庫」から復刻版が出ており、比較的手に入れやすくなっています。非常に分厚い本ですので、最初から最後まで通読するよりも、気になる章(例えば「寝室」や「台所」など)からつまみ食いするように読むのがおすすめです。